文が長そうだからって見捨てないで下さいね!?
お願いですから!
・小さな国の救世主4 シャカリキ勇者の巻 鷹見一幸 『電撃文庫』
とりあえず言いたいことは、この作者である『鷹見一幸』先生は奇才である、と。
四半世紀(25年)ほど警察官として勤務されていたらしいのですが、健康上の都合で退職されたとか。
人生経験だけで小説が書けるらしいのです。
まぁ読んでみると、本当にその通りなのですよ。
社会上の人間の腐った部分。良い部分。自分の目で見てきたものだから、よけいに真がある。
卑怯者の正義。優位に立った者の正義。敗者としての正義。民衆としての正義。高官としての正義。
そのどれもが真実味を帯びて登場・執筆されているんですよね。
少し、語ってみましょうか。
例えば、ここに『勇者が大活躍する物語』があったとする。
さて、この物語における正義とは何か。
となると、当然”勇者”の考えることが正義と成り得る。
”勇者”の反対とは”魔王”である。
では、勇者の掲げる”正義”の反対とは何なのか。
恐らくそれは、”魔王の正義”なのだ。
仮に、勇者の正義を”誰も死ぬな”だとしましょう。
なるほど確かに勇者の掲げる正義は‘ごく一般的な正義’だろう。
次に、魔王の正義を”己の身内以外死ね”だとする。
こうすると、両方の正義とは完全に相反するものとなり、勇者の”ごく一般的な正義”の対を掲げる魔王の”己の身内以外死ね”は第三者・読者からすれば【悪いこと】となる。
ならば魔王の掲げる“身内以外死ね”とは、本当に【悪いこと】なのだろうか。
物語の終盤で当然の如く、勇者と魔王は対峙する。
“誰も死ぬな”を正義とする勇者は、正反対の正義を持つ魔王に問いかける。
「お前のやってることは間違ってる! なぜだ! なぜ殺し合いを止めない!」
そこで魔王はこう答えるとする。
「俺の家族は魔族と言うだけで弾圧され、殺された! 目の前でだ! 目の前で家族を殺されたのだ!」
ここで勇者は怯む。誰しもが“近しい人間を殺された”という事に対して同情を禁じ得ないからだ。
この物語を読んでいる人も、魔王に多少なり同情を持つはずだ。
“身内が殺されたのならば仕方がない”と。
だが勇者とて、説得を止めたわけではない。こう答えるのだ。
「でも、だからって! 関係のない人を殺したって良い理由にはならないんだ!」
当然の答えと言っていいだろう。魔王のしていることは八つ当たりで、逆恨みなのだから。
復讐をしたいのならば、殺した当の本人を殺せばそこで復讐は終わったはずなのだ。
まぁそれは良いとして、物語は終焉を迎える。
「やかましいわ! 貴様に何が分かる!!」
「この! 分からず屋が!!」
こうして”力”の持った勇者は魔王を倒し、世界は平和となった。
では、立場を微妙に変えてみる。
そう、
[戦争で家族を惨殺された主人公]と[戦争の引き金となった国王]だ。
主人公は、ただ普通に生活していたのに戦争のせいで家族を失い、戦争の引き金となった国王に恨みを持ち、殺したいと願う。
国王は、戦争は先代国王(父)が敵国に殺されたため、大義としての戦争を起こさざるを得なかった。
という設定としよう。
さて、この二人にどちらが正しいも在るのだろうか?
否だ。
主人公が正しいと考えるということは、
「主人公は全く関係のない戦争の巻き添えとなり家族を失ったから、戦争の引き金を引いた国王が悪い」
ということになる。
国王が正しいと考えるということは、
「いやいや、国王にもどうしようもない理由があったのだ。家族が殺されたから殺しが成り立つのならば、先代国王(父)が殺された、現国王にも正当化が成り立つ」
となる。
結局は”正義”の違いが全ての争いを招くのだ。
上述した魔王と勇者も、
魔王「殺されたのだから恨みがある。弔い合戦こそが正義だ!」
と
勇者「誰も死なず、みんなが幸せに暮らせるのが正義だ!」
という意見の食い違いというわけだ。
さてここで違和感を感じた方は間違っていない。
そう、勇者の掲げる「誰も死なず、みんなが幸せに暮らせる」とは、魔王が含まれていない事になる。
勇者のように「誰もが」のような、とてつもなく大きなものを守るより、魔王のような「己の身内だけ」の方が貫きやすいのも又事実。
正義の差とは、本当に人間の数だけ在ると言っていい。
「男女平等」と「女性は護る」
「どんな命令にも忠実」と「悪い命令には逆らう」
「誰も死なせない正義」と「自らの身をていして護る」なんてのもある。
となると、結局は【法】に従わねばならなくなる。
いや、【法】が無ければ無秩序混沌と化すだろう。
だが、【法】が万物平等な訳がない。
一番多そうな正義、を善とし設定するのが【法】なのだから。
さぁ、最終極論は“力”だ。
【法】に沿っていれば“一番多そうな正義”なのだから、多数決でも勢力でも負けるだろう。
“力”の無い魔王は、“力”のある勇者に負けた。
“力”の無い国王は、“力”のある主人公に殺されるかも知れない。
“力”の無い主人公は、“力”のある国王に殺されるかも知れない。
要は力なんだよね。
空しいけどさ。な。
話し戻って、鷹見一幸の書く「小さな国の救世主」とは、人の正義を見せてくれる。
魔王が含まれなかった勇者の正義も、どうすれば良かったのか、この本で少しだけ分けるかも知れない。
だが、本当に少しだけだ。
所詮この本だって、“個人の見解”の塊だもんね。
でも、この本は“今の自分の見解”から脱却させてくれる。
まぁとしあえず、オススメの一品。
あ~長げぇ;;(ォィ
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